AWC 絡繰り士・冥 1−2   永山


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★タイトル (AZA     )  16/12/29  20:36  (299)
絡繰り士・冥 1−2   永山
★内容                                         17/05/15 21:42 修正 第2版
「この邸宅は細木海彦の所有で、剃刀もこの家にあった物。本邸は二十三区内にある
が、芸術家として名と財をなした細木氏は、気が向いたときにふいっと姿を消して、こ
ちらの屋敷に滞在することがあったという話でさあ。そのときの気分次第で、枯山水を
こしらえるよう、専門業者へ前日に注文が出されることもあった」
「今回はどうだったんです?」
「やや余裕があったな。二日前に注文があって、せっせと作り上げたと」
「その業者が犯行に関わっている可能性は?」
 流は、数多い選択肢を潰す意味で聞いてみた。もし犯人が枯山水作りを得意としてい
るのであれば、足跡のない謎なんて存在しないことになる。
「アリバイあり、動機なし。ついでに言えば、ご丁寧にも、この枯山水の仕上がりを写
真に収めていた。その写真と現場を見比べることで、他人によって枯山水が破壊され、
作り直された可能性はないと判断できた。一度壊してしまうと、細部まで完全に再現で
きるものではないという訳ですよ」
「元々の形がちょっとでも崩れたような箇所は、なかったんですか」
「そりゃまあ、渦巻きの尾根がちょこっと崩れたというような箇所はありました。だ
が、それくらいなら強い風が吹いたり、大きな虫が通ったりするだけでも起こることで
すからな。だいたい、その程度の小さな痕跡があったって、人一人が行き来できるよう
になるはずないでしょう」
「……まあ、そういうことにしておきましょう。被害者は、ここへは一人で滞在してい
たのですか? 足が悪いのなら、世話をする人が一人はいそうですが」
「いや、それが一人だった。芸術家っていうやつなのか、細木氏がここへやって来るの
は、インスピレーションを得るのが目的で、そのためには他人の存在を邪魔に考えてい
たんですな。だから、車でさえ特別しつらえにして、自分で運転できるようにし、本邸
からここまで一人で来たみたいで。食事は、買い込んでおいたインスタントや缶詰なん
かで、充分だったようです」
「掃除は我慢するとして、トイレや風呂はどうするんだろう。一人でできたのかな」
「できたと聞きましたし、実際、出発時は一人だったことは確定しとりますよ」
「途中で誰かを乗せたかもしれない、と」
「まあ、可能性はある。犯人を乗せた可能性がね。だが、被害者の車は残っとりますか
らな。ここまで同乗してきた奴がいて、そいつが犯人なら、ここから立ち去る手段に困
る。タクシーを呼ぶ訳にもいかんでしょうから、恐らく犯人は自前の車で来たんでしょ
うよ」
「なるほど、納得したよ、吉野刑事」
 そこまで言って、流はふっとしゃがみ込んだ。虚を突かれた形になった吉野が、慌て
た風に目線を落とす。
「何か見付けましたか」
「この葉っぱ……」
 流の指は、地面に落ちていた黄色い木の葉を示していた。正確には、木の葉の形をし
ていた物、となるだろう。親指ほどのサイズのその葉っぱは、元の形状を残しつつも、
諸々に崩れていた。わずかに、葉脈のラインが木の葉の骨格のように残っていた。
「その葉っぱが何なんです?」
「こんな崩れ方はおかしいんじゃないか。少なくとも、珍しいと思う。普通の枯れ方で
はないし、腐った訳でもない。虫に食われたのなら、こんなに粉は残らないだろうし…
…」
「うーん、言われる通りかもしれんが、気にするようなことですかね」
 刑事もしゃがみ、指先で葉っぱにちょんと触れた。その拍子に、葉脈の部分までが、
ぽきりと折れた。
「お、随分と脆いな。力ずくで揉み潰したみたいだ」
「――吉野刑事。これは証拠になるかもしれない。保管することをおすすめします」
 流が真剣な口調で告げると、吉野刑事は一瞬、怪訝な顔をしたが、すぐさまその表情
を消すと、言われた通りに証拠袋に問題の葉を収めた。
「何なんです、一体」
「ええっと……事件の状況を聞いて最初に私が思い付いたのは、水を注ぎ入れて庭園全
体を池にして、ゴムボートか何かで遺体を運んだという方法でした」
「そりゃ無理だ」
「ええ。現場を見て、撤回しました。ここまで見事な枯山水だと、水をどんなに静かに
注ぎ入れても、崩れてしまう。第一、水を溜めるだけの枠が、この庭園にはない。注い
でも注いでも、流れてしまうだけ」
「でしょうなあ。それで、この葉っぱを見て、別の方法を思い付いたと」
 流は頷いたものの、「まだ確信は持てませんが」と前置きした。
「この葉っぱ、極めて低温に晒されたんじゃないかと思うんです」
「低温というと……この辺は真冬でもマイナス二、三度ぐらいですかね。ここは高度が
あるから、もう少し下がるかもしれないが、今はまだ秋口だ。そんなに下がるとは思え
ませんな」
「犯人が意図的に低温にしたんです。液体窒素を持ち込んでね」
「液体窒素? ああ、昔、テレビコマーシャルでありましたな。バナナで釘を打つと
か、薔薇の花が粉々に砕けるとか」
「はい、あれからの連想になります。葉っぱは低温のために諸々になったんじゃないか
と考えた」
「ふむ。液体窒素をおいそれと運べるかどうかは調べないといかんが、意見としては面
白い。液体窒素を犯人はどう使ったと?」
 問い掛けに、流は立ち上がりながら答えた。
「枯山水を崩さぬよう、固めるために」
 刑事も続いて腰を上げる。
「ほほう? 果たして、液体窒素を撒くだけで、この枯山水全体が固まるでしょうか
ね」
「全体を固める必要はない。遺体を運び、また戻れるだけのルートを確保できさえすれ
ばいい。被害者の足が不自由だった点から推して、車椅子が通れる幅があれば、事足り
るんじゃないかな」
「しかし、そもそも液体窒素を撒いただけで、砂が固まるもんですかな?」
「水分を含んでいるだろうから、固まるはず。もし足りなければ、加えてやればいい。
霧吹きでも用意して」
「まあ、霧吹きの霧ぐらいだったら、砂は崩れませんな。で、犯人はかちこちに固めた
砂の上を、ゆうゆうと進んで遺体を運んだと」
「いや。直に触れて進むと、さすがに崩れそうだ。固さは脆さに通じるからね。多分、
重量を分散するために、平らで長くて丈夫な板を用意したんじゃないかな。板を渡し掛
けて、その上を進めばいけると思う」
「うむむ。実験をしてみたいところだが……」
 吉野刑事は難しい顔をして、腕組みをした。
「葉っぱ一枚じゃあ弱い。もう一つ二つ、決め手が欲しいな」
「そこいらを掘り返せばいいさ。葉っぱ以上に“冷凍”を窺わせる証拠が見付かるかも
しれない」
「何だ、それは?」
 首を捻った刑事に対し、流はほんの少し笑ってから答えた。
「幼虫やミミズの類ですよ。凍死したのがあるはず」

             *             *

 一ノ瀬メイが逗留している宿に、朝早くからやって来た宇月刑事は、報告書を手に、
嬉しそうに話していた。艶のある長めの髪をかき上げ、弾んだ声で告げる。
「ご指摘の通り、倒産したエア遊具メーカーの工場周辺で目撃者を探したところ、何度
も出入りしていた男がいました。冥もしくは冥の仲間かどうかはまだ分かりませんが、
割と特徴的な顔立ちだったようなので、ひょっとしたら行方を掴めるかもしれません」
「その工場から、遊具は持ち去られていたの?」
 朝食をほぼ終えた一ノ瀬メイは、コーヒーカップを口に運んだ。通常は食堂まで出向
いていただく物なのだが、特別に部屋まで持って来てもらった。捜査中の事件の話をす
るのに、人の出入りが多い食堂はふさわしくなかった。
「はい。幸い、記録が残っていて、何がなくなったか把握できました。なくなった物を
つなぎ合わせると、五十メートルくらいになります。もちろん、直方体なんかは、長い
方を採用したとしてですが」
「湖底に設置しようとすると、アンカーが絶対にいるだろうし、空気を送り込む機械も
必要になる。その辺りは?」
「アンカーは確認できました。さすがに持ち帰ることは難しかったみたいで、湖底を捜
索すると、割と早く見付かっています。方々から集めたのか、大きなコンクリートブロ
ックや金属の球で、回収の方が大変だったみたいですよ」
「送風機は?」
「同じエア遊具メーカーにあるにはあったんですが、会社を畳む直前に売り払っていま
した。だから、そこから持ち出したんじゃあないですね。鋭意捜査中です」
 そこまでは難しかったか。だが、一ノ瀬メイは一定の安心を得た。
 この墜落死事件の犯人、恐らく冥は、S湖の水中に巨大な空気のタワーを用意するこ
とで、墜落死と溺死がほぼ同時に起こる状態を拵えたのだろう。天辺が湖上から覗くよ
うにして、そこへ被害者を横たえた。無論、被害者を眠らせるなり何なりして、意識を
奪っておかねばならない。それから空気のタワーを崩壊させる。膨らんでいた風船を破
裂させるのだ。すると被害者を支えていた足場は瞬時に消失し、結果、被害者は五十
メートルの湖底へと真っ逆さまに落ちる。それとほとんど同時に、周囲の水も流れ込ん
でくる……。
 五十メートルにも及ぶ空気のタワーを作るには、巨大な容れ物がいる。真っ先に思い
浮かんだのが、エア遊具だった。デパートなどが主催する子供向けのイベントでたまに
設置される、ビニールを膨らませた滑り台や、中で飛び跳ねて遊べるような遊具だ。調
べてみると、あつらえたかのように、R県内で倒産したメーカーが見付かった。
「これで決まりと言っていいでしょう。それにしても、こんな大掛かりで馬鹿げた殺害
方法を考え出し、実行する冥も冥ですが、見破る一ノ瀬さんも相当ですね」
「前も言ったように、今回は私一人で思い付いたんじゃないんだけれどな」
 宇月の称賛とも呆れとも取れる言い様に、一ノ瀬メイは肩をすくめた。冷めたコー
ヒーの残りを飲み干すと、懸念も表しておく。
「気になるのは、冥の意図だね。この捜査で捕まるかどうか分からないけれど、正直言
って、私は当てにしていないから」
「ひどいなあ」
「だってそうでしょ? 今回の犯行は、冥らしさとそうでない部分が同居してる感じ
で、気持ち悪い。向こうから私にアプローチしてくるのだって珍しいし、遊具メーカー
の近くで事件を起こすなんて、わざと解かせたがってるみたい。基本的に冥は動機なき
殺人、無差別に被害者を選んでいるはずだから、場所はどこでもいいだろうに」
 そこまで言ってから、一ノ瀬メイははたと思い出した。しきりに納得している宇月刑
事に、改めて聞いてみた。
「そういえばまだ知らされていないんだけれど」
「何をですか、一ノ瀬さん」
「この事件で死んだのって、誰なの」

             *             *

 豊野茂美の死因が特定された。窒息死、それも二酸化炭素によるものだった。
 その情報が新たにもたらされたとき、少女探偵団リーダーの九条は、事件の全貌が見
えたような気がした。
「水曜会議を始めます」
 定期的に開いている、少女探偵団の会議のスタートを告げた九条。今回集まった場所
は、九条の自宅だ。
「議題は当然、三谷根さんと豊野さんが殺された工場の事件です。今岡刑事に考えを聞
いてもらう前に、私達で充分に検討しておきましょう」
「するっていうと、若菜はもう何か思い付いているのね。凄い」
 江尻が感嘆したようにため息とともに言った。九条は九条で、戸惑いを纏った笑みを
返す。
「早いだけで正解でなければ、意味はあまりありません。それよりも、みんなの意見を
先に聞きたいのです。先入観を持つのを避けるのは難しいでしょうが、なるべく公平に
判断するつもりですから」
「私は当然、なし」
 江尻は左隣の二人を見やった。両津が反応する。
「部分的でもいいの?」
「無論です」
「じゃあ……三メートルの高さから刺すなんて、あり得ない話だよね。でも鑑識や司法
解剖で、そうそう誤りが出るとも思えないし。だからあれは、遺体の向きが発見された
ときとは違ってたんじゃないかなって思った」
「刺されたタイミングが、遺体が壁にもたれかかっていたときではなく、別の姿勢のと
きと考えるんですね」
 九条が察しよく答えると、両津は強く首肯した。
「たとえば、完全に横になっている場合とか。床を滑ってきた刃物が刺さったら、三
メートルの高さから刺さったと判断されるかも」
「ちょっと。距離の問題じゃないでしょ」
 蘇我森が指摘する。
「力と角度が重要なんじゃないの? 三メートルの高さから落下したときとおなじくら
いの加速が必要になると思う。今の説だと、角度はともかく、力は弱まりそう」
「じゃあ、あきちゃんは何か思い付いてるの?」
 やり込められて悔しかったのか、両津は食ってかからんばかり有様だ。蘇我森は「私
も部分的だけど」と断ってから、九条へと向き直った。
「冷凍車が使われたんだとしたら、やっぱり、氷を何かに使ったという考えが、頭から
離れなくって。それでね、さっきはあんな言い方をしたけれども、重子の考え方に基本
的には似てるの。つまり、姿勢が違ってたんじゃないかっていうところ」
「あ、分かった」
 両津と江尻がほとんど同時に言った。ここは両津が譲る。
「三メートルの高さを氷で稼いだんだ? たとえば氷で、高さ三メートルの雲梯みたい
な物を作って、上に被害者を横たえる。当然、意識を失わせ、自由を奪っておく。一
方、その真下には、凶器の刃物を立てておく。必要なら、充分に大きな氷で固定すれば
いい。時間が経つと雲梯の氷が溶けて、遺体は落下。肩口に刃物が刺さる――こんな感
じ?」
「ええ、まあ、そんな感じ」
 蘇我森は口調を真似て返事した。そして三人の目がリーダーに集まる。
「二つとも独創的な案で、いいんですけど……」
 九条は言いにくそうにしつつも、程なく、きっぱりと言った。
「どちらも違うと思います」
「うん、それも分かってる」
 蘇我森が苦笑いを浮かべて即応した。
「私が言ったやり方じゃあ、現場が水浸しになるし、三谷根さんだっけ、被害者の姿勢
が発見時とそぐわなくなる。まあ、犯人が遺体を置き直したと考えてもいいんだけれ
ど、それじゃあ何のために自動殺人トリックを用いたのか分からなくなっちゃう。ただ
単に、身長三メートルの大男に刺されたという構図を演出したい、なんてのもなさそう
だし」
 二案にだめ出しがなされたところで、九条はこほんと咳払いをした。
「では、私の仮説を聞いてください。発想の源は、豊野さんの死因から」
「二酸化炭素による窒息死ってやつね」
「はい。二酸化炭素と言えば、ドライアイスです。ドライアイスと言えば、氷の代わり
になります」
 九条以外の三人から、あ、という息が漏れたようだった。
「犯人が冷凍車で持ち込んだのは、大量のドライアイスだったのではないかと考えてみ
ました。気密性の高い建物内で、ドライアイスが解けたために二酸化炭素が充満し、豊
野さんの命を奪った」
「……納得した。けど」
 江尻が三人を代表する形で質問する。
「そのことと高さ三メートルからの刺殺は別物なの?」
「いえ。つながっていると推測しています。犯人はドライアイスを、大きな板状の形で
用意したのだと思います。それも少しずつサイズを変えた板を、何枚も」
「うーん、よく分からない……」
「ドミノ倒しです。ドライアイスの板を何枚も立てて、端っこの小さな板をちょんと押
すと、段々と大きなサイズのが倒れていき、最後には高さ三メートルの板が倒れ、前も
って上端の辺りに埋め込まれていた刃物が、三谷根さんを刺し殺した。その後ドライア
イスは気化して、豊野さんの命を奪いつつ、消え失せます」
「何とも凄い絵面の殺人トリックだわ」
 感嘆と呆然が混じったような感想を漏らす江尻。代わって、両津が口を開いた。
「じゃ、じゃあさ、ドミノを押したのは誰なのよ? 犯人が自分で押したんだったら、
トリックの意味、あんまりなくない?」
「うーん、押したのは犯人かもしれないし、そうでないかもしれない。現時点では、判
断できないわ」
 苦情はそこまで言ってから一呼吸置き、やがて思い切った風に付け加えた。
「ただし、誰が押したのかは、想像が付いている」
「どういうこと? 犯人かどうか分からないけれど、押したのが誰かは分かってるだな
んて」
「その誰かが、悪意を持った犯人、もしくは犯人の仲間かどうかは分からないっていう
意味よ。ここまでの話で想像できてるかもしれないけれど、私が思い描いているのは、
豊野さん」
「豊野さん? 拘束されていたのに?」
 再び江尻が聞いた。
「拘束されていたと言っても、足は動かせたはず。豊野さんと三谷根さんとの間に、さ
っき言ったドミノが並べてあったとしたら。最初の小さなドミノに、爪先が当たる位置
にね」
 江尻、両津、蘇我森はそれぞれ上目遣いになった。情景を脳裏に描いているのだろ
う。
 次に口を開いたのは、蘇我森だった。
「その位置関係だと、ドミノを押したのは豊野さんの意志か、それとも拘束を逃れよう
ともがいた弾みかは分からないってことね」
「ええ。豊野さんは目隠しをしていたから、自分の足元に殺人ドミノがあるなんて気付
かなかったのかもしれない。一方の三谷根さんは声を出せなくなっていましたから、彼
自身の危機を豊野さんに伝えることはできなかったでしょう」
「そういうことなら、内側の鍵がロックされたのも、豊野さんの意志かどうか不明にな
るんだ……。でも、最後に死んじゃってるんだから、やっぱり犯人じゃないんじゃな
い?」
 両津が述べたのに対し、九条はまたも首を横に振って、肯定しなかった。
「冥が主犯、豊野さんが従犯の関係で、最後に冥が豊野さんを切り捨てたのかもしれな
い。ドミノがドライアイス製だとは伝えずに、ただの氷製と言っておけば、安心して協
力するでしょうね。後に発見されたとき、三谷根さんは殺されたが、豊野さんは危ない
ところを発見されるというシナリオだったのかも。ドミノが消えることで、豊野さんが
三谷根さんを殺したようには見えない訳ですし」
 九条の推理に、両津達は改めて感心したらしく、それぞれ何度も首肯を繰り返す。そ
れから蘇我森が新たな問題を提起した。
「もしも、豊野さんが三谷根さんを殺したのだとしてよ。動機は? 動機なしに冥に協
力するかしら」
「さっき述べた推理通り、豊野さんが遺体とともに見付かる役目を負うつもりだったの
なら、かなり危ない橋を渡ることになります。普通、動機なしに協力はしないはず。警
察が調査を続けているのですから、きっと動機が見付かると信じています」
 九条は思いを込めて断言した。
「さあ、この推理を私達少女探偵団の総意として、今岡刑事にお伝えするという方針
で、よろしいでしょうか?」

             *             *

 ここ数日の新聞等による報道を見聞きして、冥は満足していた。
 自分が前辻能夫よりも優れていることを、自身の内で証明できた。当たり前のことで
あったが、証明できたことでよりすっきりした。全ては心の安寧のために。
 それと同時に、自分の鑑定眼に狂いはなかったとも確信を持った。好敵手と認めた探
偵達は皆、今度のテストをクリアしたのだ。今後の人生が楽しいものになる。そう保証
された。
 と、一定の満足を得た冥だったが、喜びに浸っている時間はあまりない。次の仕掛け
が待っている。
 この春先からこっち、将来有望そうな若い探偵の存在を掴んでおきながら、彼の実力
を試す機会がなかなか得られなかった。遊戯的殺人の謎を続々と解いていることから、
能力は確かなように思えるが、念には念を入れ、冥自身が直接試しておきたい。そう、
九条若菜を試したときのように。
(十文字龍太郎、か。高校生ということは、九条若菜よりは年上だけれども、まだ若
い。不安材料は、知り合いに一ノ瀬メイがいるという点かな。これまでの十文字の手柄
は全て、彼の独力によるものだったのか。そこを含めて、きっちり査定してあげよう)
 冥は頭の中にある数々のプランから、条件に合うものを絞り込みつつあった。
(できるものなら、被害者には殺し屋さんを選びたいね。私のような者にとって、プロ
の殺し屋は近いようで遠い存在。似ているようで、まるで違う。遠くでうろちょろした
り、すれ違うだけならよかった。でも、ここ最近は前辻の件を含めて目障りになってき
た。警告を発するのに、ちょうどよい頃合い)
 絞り込みや選定にいよいよ熱を入れる冥。テレビをつけっぱなしでいたのだが、消し
た方が集中できるだろう。
 リモコンを向けた先のテレビでは、ニュース番組のキャスターが、殺人事件の詳報を
伝えていた。
<――警察の発表によりますと、豊野茂美の実母が三谷根から――>

――終わり




元文書 #490 絡繰り士・冥 1−1   永山
 続き #500 絡繰り士・冥 2−1   永山
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