AWC     我が収集癖 (随筆)    /竹木貝石


        
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★タイトル (GSC     )  94/ 9/24   4: 8  (179)
    我が収集癖 (随筆)    /竹木貝石
★内容


   1 はじめに

 世の中には色々なコレクションがあり、それらに比べると私の集めている物など、
その規模や熱の入れ方において到底「収集」と言えるようなものではない。
 以下の文章は、「こんな物好きも居る」という軽い雑談のつもりで読み流して頂け
れば幸いである。
 なお、私の場合、視覚的な観察や表現が不可能であるという点もお含みおき願いた
い。
 Uploadがスムーズニデキレバ、この随筆は、連続8回の掲載になる予定であ
る。
                           [1994年9月5日]





   2 破魔矢

 名古屋地方の初詣には、熱田神宮へ行く人が多い。私も平均的な日本人というのか、
特定の宗教を深く信仰している訳ではなく、また神道という意識もないが、子供の頃
からの習慣で初詣に行くのは楽しい。

 おみくじはよく引くが、私は破魔矢という物を知らなかった。もし知っていたとし
ても、そういう高価な縁起物はなかなか買えなかったであろう。
 「目は見えなくても、大抵のことは分かっているつもり」の私だったが、実際に破
魔矢を手に取ってみるまでは、弓に用いる矢を小ぶりにしただけの物だとばかり思っ
ていた。
 50歳になって初めて破魔矢を買った私は、その趣ある形がすっかり気に入ってし
まい、それからは毎年正月に、熱田神宮で破魔矢を買うことに決めた。

 ここで破魔矢について説明することもないとは思うが、私は生来、角張った形の物
が好きで、特に木製品であるのがいい!白木を綺麗に削って、大きな将棋の齣を横長
にしたような五角形に仕上げ、焼き印が押してある感じも気に入っている。
 他に、鳥の羽・短冊・お守り・鈴も、60センチほどの木の棒に結わえてあり、結
構手が込んだ品である。

 さて、わが家にこの破魔矢が6本貯まった。もう1本くらいどこかにしまってある
筈だが、とにかく私は十二支の破魔矢を一通り揃えたいと考えている。
 「そんな物を集めてどうするんだ。」
と言われるかも知れないが、集めたいのだから仕方がない。
 「古い破魔矢は神社へ持って行って、厄払いに焼いてもらう方がいいよ。」
と教えてくれる人もいるが、そんなもったいないことはできない。
 12本揃ったら、最初に買った破魔矢から順に毎年飾るつもりでいるのだが、はた
してそれまで生きていられるかどうか?





   3 皿と矢尻

 私が最初に収集を思い立ったのはいつのことで、何を集めたのだったか?
 小学校5年生の時、歴史の教科書で貝塚のことを読み、家に帰って、二つ違いの兄
とその話をしているうちに、古い掘り出し物を集めてみようということになった。
 兄がどこからか捜してきた土の皿は、10センチと15センチくらいの楕円形で、
明らかに手作りだった。上薬は塗ってなく、素焼きでもなくて、ただ天日で干しただ
けの物である。
 私の故郷は三河の国、刈谷町(現在の愛知県刈谷市)の片田舎で、村には瓦製造業
が何軒かあったので、子供の頃、よく粘土をもらってきては遊んだ記憶がある。だか
ら、粘土を干しただけの状態と、窯で焼いた物との区別はつくのである。
 さて、この皿がたいそう気に入って、私はがらくた類と一緒に木の箱にしまってお
き、時折取り出しては鑑賞していた。手触りだけでははっきり分からないが、兄の説
明によると、
 「この皿は、木の葉の模様が化石のように浮き出ていて、なんとも言えず古びた感
じがする。」
とのことだった。


 それから何日かして、学校帰りの兄が、
 「いい物を見つけたぞ。」
と言って、私に手渡してくれたのは、4センチくらいの角張った岩の破片のような物
だった。
 「これは何?」
と私が聞くと、
 「矢尻か何かに使った物じゃないかなあ。神社で拾ったんだ。」
と兄が言い、そう言われると何やら珍しい品のように思えてきて、私は件の皿と一緒
にがらくた箱に保存しておいた。

 村のお祭りの日に、兄と二人で神社の建物の裏側へ回って行ってみると、そこに沢
山の貝殻が落ちていた。
 「矢尻を拾ったのはここだよ。」

と兄が言い、 「ウーム、これが貝塚か!なるほど。」
と私は納得したが、今思うと、多分それは貝塚ではなく、ただ単に、誰かが貝を食べ
てその殻をそこへ捨てただけの物だったに違いない。古い神社であることと、その場
所で矢尻のような珍しい石を拾ったということで、私はここを貝塚などと勝手に決め
込んだだけである。
 「矢尻」とは言っても、よく考えると何の変哲もないただの石ころであり、多少変
わった模様が付いていたかも知れないが、弓矢に取り付けることなどできはしなかっ
た。

 さて、その後も度々兄にせがんで、
 「何か面白い物は見つからないかい?」
と尋ねるのだったが、他には私の記憶に残る品物は何も無かった。
 私は小中学生の間、ずっと盲学校の寄宿舎に入っていて、故郷へ帰って兄と遊べる
のは、春・夏・冬の休みの時だけだったから、古びた丁度品を収集することもあまり
できなかったのである。





   4 煙草用品

 私は今では煙草をやめているが、若い頃はよく吸ったものだ。
 当時最もポピュラーだった「しんせい」という巻煙草は、20本入り一袋40円で、
これをケースに入れて持ち歩くのだが、生来、私は持ち物をすぐ紛失させてしまうの
で、あまり高価なケースを買う訳にいかない。それでも、アルバイト先の兄弟子から
卒業祝いにもらった軽金属製のブック型ケースを無くした時と、修学旅行の十和田湖
畔で買った桜の木の皮のケースを、バスの中に置き忘れてしまった時は、かえすがえ
す残念でならなかった。

 灰皿にもピンからキリまであるが、私の家にある物でいうと、不動産屋がくれた大
きな鉄製の灰皿は立派である。

 煙草ケースや灰皿を収集するのは大変だが、パイプなら手軽であろうと考えた私は、
旅先で、小銭で買える程度のパイプを物色し、胡桃パイプだの、栗の木の根で造った
パイプだのを、10本ばかり買い集めた。当時はまだプラスティック製品が珍しかっ
た頃で、私は小さな四角形の本体に細い棒状の吸い口の付いたパイプを買ったことが
あり、後で妻にそれを見せたら笑われてしまった。四角形の1箇所に小さな穴があい
ていて、そこから中を覗くと、女の裸体か何かが見える仕掛けになっていたのである。
道理で旅先の店でこれを買おうとした時、店員が勧めにくそうにしていた訳だ。

 学生時代に読書サークルだった仲間が、結婚祝いに送ってくれた煙草セットは、私
の趣味にぴったりの品だった。
 全て鉄でできていて、四角い三つの箱、すなわち煙草入れ・マッチ入れ・灰落とし
が鉄の台の上に並んでいる。箱の蓋には松竹梅が浮き出し模様になっており、ピカピ
カに磨いてあって、煙草のヤニで汚すのがもったいなかった。
 後年、私は苦労の末やっと煙草をやめることができたが、それで一番残念だったの
は、かの煙草セットがいらなくなったことである。私は使わなくなった煙草セットを
綺麗にふき取り、元通り紙に包んで木の箱に修め、さらに外から新聞紙でくるんで、
棚の奥にしまい込んだ。





   5 新聞の切り抜き

 本人や家族は勿論のこと、親戚や知人の記事とか写真が新聞に乗ると、それを切り
抜いてスクラップにしておく人が多い。
 私もそういう一人だが、他に、将棋の棋譜も沢山保存してある。切り抜いてホッチ
キスで綴じてはあるが、その棋譜を読み返したり、将棋盤に並べて見当することは滅
多になく、取ってあるというだけで安心してしまうのであろう。

 札幌交響楽団の元常任指揮者 荒谷正雄氏は、札幌音楽院の院長でもあった。私た
ち親子4人が、この音楽院でヴァイオリンを習っていたのは今から25年も前のこと
だが、当時、荒谷先生の文章が北海道新聞に連載されたことがあり、私は毎日それを
切り抜いて、使わなくなった楽譜本に貼っておいたものだ。
 最近どこかへ紛れ込んで見あたらないので、正確なことは言えないが、『音ととも
に50年』と題するその随筆は、主に氏の外国生活の思い出について書かれ、30〜
40回続いたように記憶している。その随想を点訳(点字文に直すこと)したいと考
え、手作りのスクラップブックを音楽院へ持参して振り仮名を付けてもらった時は、
著者の荒谷氏も非常に喜んでおられた。

 同じ頃掲載された『北海道語』というシリーズ物も切り抜いてあり、これを読むと
北国の方言が懐かしい。

 最近切り抜いたのは、津本陽氏の小説『夢のまた夢』で、これは本文1075回・
番外編8回・あとがき7回・合計1090回に渡って、中日新聞の朝刊に連載された
長編である。豊臣秀吉を描いた作品で、手紙などの歴史的資料を丹念に調べて書かれ
ている。いずれ文庫本が出るので、それを買えばよいようなものだが、切り抜きには
またそれなりの愛着がある。

 切り抜くと言っても自分ではできないから、全部妻に頼むのだが、今回の『夢のま
た夢』では私も多少苦心した。何しろ新聞のこの欄は細長くて、幅約7センチ、長さ
40センチの長方形なので、何枚も重なるとはなはだ綴じにくい。一定の枚数が貯ま
ると、点字用紙を同じ大きさに切って両面に当てて表紙代わりとし、きちんと揃えて
3箇所を紙ばさみでとめる。寸分違わず揃うまで、紙ばさみを1個ずつはずして真っ
直ぐに整える。ゆがんだりずれたりしている紙が1枚もないことを確かめてから、大
型のホッチキスでガチャンと綴じる。
 先ほど調べてみたら、この切り抜きの束が全部で18冊あった。









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