AWC お題>1対1@ つきかげ


        
#5068/5495 長編
★タイトル (CWM     )  00/ 5/22  21:17  (163)
お題>1対1@                                      つきかげ
★内容
「やったぜ、見ろよ」
 画面に派手に、『YOU WINNER』の表示が出る。おれは満面に笑みを浮
かべ、深紅のスーツに身を包んで傍らにたっているナミへ声をかけた。
 ナミはうんざりしたようなため息をつく。
「大体さあ、なんでデートの行き先がゲームセンターなのよ。私たちは塾帰りの高
校生なわけ?」
 おれはナミの愚痴を無視して再び画面に向かう。
「おまえさあ、知らないの?今、このスーパードッグファイトってゲーム凄ぇはや
ってんだぞ」
 派手なダンスミュージックが鳴り響き、いかれた格好の子供たちがうろつき回っ
ているそのゲームセンターには、ジェット戦闘機のコックピットを模したブースが
ざっと二十機は並んでいる。どういう訳か対戦型のジェット戦闘機ゲームが大ブレ
ークし、世界ランキングまでできていた。
 ナミはおれの頬の肉をつかむとぐいっと、捻る。
「はやってるとかそういう問題じゃないでしょう」
「いや、あの」
 おれは、慌ててナミの手をタップする。しかし、ナミの力はさらに強まった。
「だいたい恭平、元戦闘機パイロットのあんたがこういうゲームで素人相手に勝っ
てもしょうがないでしょう」
「いや、判った、やめるよ、ここを出よう」
 ナミはにっこり笑って手を離した。
「じゃ、ショットバーにでもいく?」
「もう一勝負したらな」
 おれは殺気を感じて首を竦める。おれの頭の上をエルメスのバックが唸り音をた
てて通りすぎた。
「おい、恭平。てめぇなめてんのかよ」
「今日はまだ、やつに会ってない」
「やつって、誰よ」
「MAYAだ。ファントムMAYA」
 おれは対戦者待ちのリスト表示画面をスクロールさせていく。日本中のゲームセ
ンターのブースと通信対戦可能であるが、難易度AAAのクラスになると流石に待
ちの数は三桁を割る。
「強いの?、そのMAYAっての」
「強い、強い」
 おれはふーっとため息をつく。
「本気だして10回くらいやったけど、一度も勝ったことないんだ」
 ナミが目を剥いた。
「一度も?冗談でしょ。仮にも三年前はエースだったのに。なまりすぎよ」
 おれはMAYAを探すのに夢中で、ナミの言葉に返事している余裕が無かった。
「時間的にはそろそろ出てくるはずなんだが、おっ」
 何回かリスト表示画面のリロードを繰り返しているうちに、MAYAの名前が出
現した。おれは膝を叩く。
「さあて、今日のメーンイベントだ」
 ナミは諦めたように天井を仰いでてを広げる。
「さっさと負けるのよ」
「冗談じゃねぇ」
 おれの対戦要求をMAYAが受諾した。画面が自動的にフライトシミュレーター
としての飛行場画面へと切り替わってゆく。おれはいつものようにF14を選択す
る。機体の色は白だ。
 MAYAの選ぶ機種も画面の片隅に表示される。例によってF4ファントムであ
った。相変わらず、なめたまねをする野郎だ。
 コックピットのレイアウトは、実物とほぼ同様である。操作もある程度簡略化さ
れているとはいえ、難易度AAAクラスであればほぼ実物と同様だ。
「いくぜ」
「ばーか、やられちゃえ」
 ナミのふてくされた声援を受けておれのF14は舞い上がる。全くGを感じない
のは奇妙なものだ。エンジン音が悲鳴のように高まってゆき、速度が上がる。
「きたきた、やつだ」
「何あれ、凄いの」
 機体がゴールドメタリックに塗装されたF4が画面の片隅に表示されている。そ
れをみてナミが感心した。
「自衛隊もこういうの使えばいいのよ」
「馬鹿いえ」
 あっという間にバトルへ突入する。おれはナミの相手をする余裕を無くした。高
速でスラロームしあう二機は、戦闘ステージとして選んだ山岳地帯を飛び回る。
 ナミは結構興奮して後ろで叫んでいた。画面は三半規管が弱いものならあっとう
まに酔いそうな勢いで変化している。おれはナミが肩を叩いて呼びかけても、応え
る余裕が全く無い。
 おれが撃墜されるまで、ものの3分ほどであったろうか。おれはシートに深く腰
を降ろすとため息をついた。煙草が恋しくなる。
 画面は自動的に二本目の戦闘ステージである海のシーンへと切り替わってゆく。
航空母艦の滑走路が表示された。
 おれは二本目のバトルをキャンセルした。画面が初期画面のデモンストレーショ
ン画面へと切り替わってゆく。
「やめちゃうの?」
 ナミが意外にも、つまらなそうな声をだす。
「そう。終わりだ」
 おれは立ち上がる。ゲームは三本勝負であるが、MAYAとの勝負はいつも一本
目でキャンセルしていた。二連敗したくないというのもあるが、実戦で二本目は無
いだろうという意識もある。
 おれは、今日のバトル情報をメモリカードにセーブする。メモリカードには戦闘
記録が保存されるようになっていた。カードには自分用の機体のカスタマイズ情報
をセーブして持っておくことができる。そのカードを使えばどのブースでも自分用
にカスタマイズした機種が使えるようになっていた。
 対戦情報を、インターネットを通じて専用サイトへアップロードすれば世界ラン
キングが割り振られる。今のところおれもMAYAもノーランカーだが、二人とも
ランカー相手の対戦で負けなしだった。MAYAはさしずめ無冠の帝王というとこ
ろだ。
「けっこう面白いね、このゲーム」
 ナミが上気した顔で声をかけてくる。
「だからいったろうが」
 おれはゲームセンターの外へ向かう。後ろからナミが声をかけてくる。
「ねえ、私もやってみていい?スーパードッグファイト」
「馬鹿いえ」
 おれは憮然とした声になる。
「夜は短い。いくぞ」
 ナミは笑いながら、おれの腕に絡まってくる。
「じょーだんだよ。むきになんなよな」
 おれは苦笑して、ナミの肩を抱いた。

 ふと目がさめる。
 ナミの部屋の馬鹿でかいベッドの上だった。高層ビルのペントハウスであるナミ
の部屋は、片側の天井と壁がガラス張りである。月明かりがおれの身体を蒼く染め
ていた。
 おれはベッドの脇のテーブルからピタースターブザンドのエクストラマイルドを
一本とると、火を点ける。ナミの姿は見えない。おれはぼんやりと壮観ともいえる
夜景を眺めていた。
 まだ真夜中を少し回ったくらいの時間だ。おれはニコチンが身体に行き渡ると同
時に次第に意識が覚醒していくのを感じた。
「見つけたわよ」
 突然、ナミの声が上から降ってくる。
 ナミの部屋は片側は壁に面しているが、ガラス張りになっている側は二階まで吹
き抜けになっていた。おれは、上に声をかける。
「何が見つかったって?」
「あなたの恋人、MAYAちんよ」
 おれは苦笑する。立ち上がるとバスローブを羽織った。
 おれは、カルヴァドスに氷をぶちこんだグラスを二つもって螺旋状になった階段
を昇り、ナミのいる二階へゆく。ナミは、下着姿のままMACのパソコンの前に座
っている。ディスプレイの明かりに照らし出されたナミは、ショウウィンドウの中
のマネキンを思わせた。彼女の整った顔はレプリカントのように美しい。
 おれはナミの分のグラスを手渡すと、苦笑しながらディスプレイをのぞき込む。
「おまえさぁ、何やってんだよ、ったく」
「結構あるのよね、スーパードッグファイト関連のサイトって。あちこち回ってい
るうちに、MAYAちんがチャットに出てきたのよ」
「へえ」
 おれは興味を持って画面をのぞき込む。
「どんな感じだよ、MAYAの野郎は」
「もぉたぁーいへん。ちょー人気ものって感じ」
「へぇ」
 おれは感心した。
「人気ものなの?」
「うっそぴょーん」
 ナミはくすくす笑う。
「まあ人気あるっつーか、アンチヒーロー?袋叩き状態ね。ばりぞうごんのオンパ
レードだわさ」
 おれは興味を持って画面を読み出す。スーパードッグファイト系のサイトは何度
か見たことがあるし、掲示板の書き込みも多少は知っていた。MAYAの書き込み
は何度か掲示板で読んだことがあるが、結構論理的でクールな書き込みだったよう
に思う。チャットで見かけたことは無かった。ただ、おれ自身チャットに参加する
ことがあまりなかったせいかもしれない。

れんふる>MAYAさん、あんたがうまくて強いのは認めるが、人間としてその態
     度はどうかと思うよ。
ゲデルン>MAYAよ、おまえなんざ、ゲームの世界でしか相手にされない所詮可
     哀想なやつさ。
えりしゅ>おまえはさ、戦闘機フェチの変態野郎だろ、結局。
れんふる>とりあえず、謝罪したらどうだい、さっきの言葉に対して。
MAYA>その必要は認めないね。大体なぜ私のことを変態呼ばわりするやつらに
     謝罪なんかする必要があるんだ?
れんふる>あなたが、人のことを馬鹿呼ばわりするからだよ。
バルキリ>MAYAよ、おまえがランカーとの対戦で無敗なのは知ってるけど、負
     けたやつを屑よばわりするのはいただけないな。
えりしゅ>思考回路が壊れてんだろ。現実世界で人間関係破綻してっから、ゲーム
     に浸りきってんだよ。あーきもちわりぃ、やだやだ。
MAYA>弱いやつは弱いし、負けたやつに気を遣うつもりもない。大体それのほ
     うが失礼だろ。おまえらの私に対する言葉のほうが、どうかしてるね。
MAYA>負けて馬鹿にされるのがいやなら勝てばいい。勝てないなら初めからゲ
     ームをしなけりゃいい。違うか?
れんふる>それは違うだろ。
MAYA>とにかく私に文句があるならまず私に勝てよ。そうしたら好きなだけ謝
     ってやるさ。






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