AWC ディック世界>ゼンマイ仕掛け $フィン


        
#465/550 ●短編
★タイトル (XVB     )  19/03/31  09:02  (157)
ディック世界>ゼンマイ仕掛け $フィン
★内容
その一

 少女は中学校に行くために家から扉を開けるとちょうど隣人が何かを持って捨てに行
くところに出くわした。
「おはようございます」少女は隣人に挨拶した。
隣人はゼンマイ仕掛けだった。ただ個性があるらしく全身黄色い色をしていた。
少女は気にすることもなく制服のリボンが少しずれていることに気づいて、少し触って
普通に学校に出かけて行った。
中学校に行く途中でいろいろな人にあった。全身ピンク色のゼンマイ仕掛けは白いエプ
ロンをしていた。全身緑色のゼンマイ仕掛けはスーツケースを持って忙しそうに歩いて
いた。全身茶色のゼンマイ仕掛けのよたよたと歩いていた。
それぞれ多種のゼンマイ仕掛けたちは、少女にはみんな知り合いでごく普通に笑顔で挨
拶していた。
中学校の生徒でも同じようにいろいろなものがいた。彼らはみんな同級生であり、授業
中に騒ぎ少し先生を困らすために全身若緑色のゼンマイ仕掛けはどこからか水を持って
きて先生にかけたりしていた。全身真っ赤のゼンマイ仕掛けは口から赤い燃えるような
言葉をはいて、気に入らない子を苛め抜くものもいたが、少女は気にすることもなく、
授業を受け、全身真っ赤なゼンマイ仕掛けから燃えるような言葉を聞くのが嫌いだった
のであえて避けていた。
 少女はどんな姿であるにもかかわらず比較的大人しい優しいゼンマイ仕掛けの女の子
たちの仲間に入り、一緒におしゃべりをし、机を並べては楽しんでいた。
 そして午後の授業がはじまり、授業を受け、授業が終わり、学生かばんを持って家に
帰るのが少女にとってごく平凡な日常を送ってごく普通の幸せを毎日感じていた。
 そんなある日、少女のごく普通の日常が一変した。きっかけは差出人不明の家のポス
トに入っていたものだった。ポストから出して、中身を開けると記録媒体がが入ってい
た。少女は好奇心でその記録媒体を見た。それは白黒に写り、かなり古いもののよう
で、画像も荒く、非常に見にくいものだったが、男の人が扉を開けるのがなんとなくわ
かる映像だった。
 その後すぐ少女の住む家の玄関の扉に大きな音でどんどんと叩く音が聞こえ、少女は
父親は会社に行って、母親も買い物に出かけていて、少女一人しかいなかった。少女は
誰も頼るものもなく恐怖で震えた。少女は玄関の扉を開けることがないようにすべての
あるだけの鍵をかけたが、外には大勢の人がいたようで扉はあっけなく破壊された。
 そこで少女が見たものは二、三人の男たちと一人の女の人だけだった。
 少女を怖がらせないために女の人は「あなたにして欲しいことがあるの」と優しく言
った。
 ところがその言葉を聞いたとたん少女は今までにない恐怖を感じた。
 恐怖に震えながらも、少女は「どんなことをしたらいいの」とそれだけ聞くのが精一
杯だった。
「それは今はまだ教えられない」更に優しい声で女の人は言った。
「それをしてくれたら、私が一番大切にしていたものをあげる」女の人は豪華な金や銀
で飾られた紫色のランプを少女に見せた。
 少女はそれを見ても欲しがろうとせず、三人の男と特に中心にいる女の人から遠ざか
ろうとして、逃げようとした。
 逃げようとした少女に三人の男がいっせいに掴みかかる。少女は必死で抵抗して、男
たちの手や足を?み、彼らの一瞬の隙をついて逃げ出した。
 その後少女は彼らに捕まらないためにいろいろなところに逃げた。近所から離れて今
まで行ったことのない酒場や教会、浜辺や小高い丘や氷河か残っている山脈まで逃げ
た。
 少女は思いつく限りの至るところに逃げ、逃げて、逃げて必死だった。それでも彼ら
は執拗にやってきて、少女の近くにやってくるような気がした。もう少女は頭をかきむ
しりパニック状態になりながらも逃げた。
 そして最後に少女が到着したところはいたって平凡な短い草しか生えていない空き地
だった。そこに一枚の鉄の頑丈そうな白い扉がぽっかり宙に浮かんでいた。
 そして少女はこの扉を開ければ彼らから完全に逃げられる唯一の方法だと知った。
 少女は扉ののぶに手をかけた。鉄の頑丈そうな扉は見掛けとは違って簡単に力を入れ
るとあっさりと扉が開いた。
 そのとたん、世界は急に姿を変えた。彼女は強烈な何か見えないものの力で押された
ように、少女は押し戻された。
 今まで行ったところすべてが目に見えないぐらいの速さでひきもどされ同時に少女の
時間も逆流された。少女はその間恐怖で声に出すことすらできずにいた。
 少女の時間がとまり、気がつくと少女は家の玄関の前に立っていた。少女は玄関の扉
を開けた。
 そこにはちょうど隣人が生ごみを持って捨てに行くところだった。
 「おはようございます」少女は隣人に挨拶した。
 隣人は少し頭の剥げたごく平凡な中年男だった。
 少女は制服のリボンが少しずれていることに気づいて、少し触りながら、少女の部屋
にある豪華な金や銀で飾られた紫色のランプがあるのを不思議に思った。昨日までなか
ったはずなのに、家族の誰かが少女を驚かそうとちゃっめけを起こして置いたものだろ
うと思うとくすりと笑った。
 少女はリボンをなおし終わるといつものように普通に学校に出かけて行った。

その二

ぼくは黄昏島にある全寮制の私立黄昏中学の2年生。
 それは最初はどこでもある昼下がり給食後の女子トイレの中で起こったらしい。ぼく
は男子だから入れないが、その場所がすべての始りであったという噂だ。
「きゃあ」ポニーテールが似合う今日子ちゃんが濡れたハンカチを握りしめながらトイ
レの洗面台の中を呆然と見つめている。
「今日子どうしたの?」近くにいた女の子たちが悲鳴を聞いて近づいてきた。
「ううん、なんでもないの」今日子ちゃんは蒼白の顔をして、洗面台に落ちていたもの
をみんなから隠すようにしながら拾った。だけどもそれは運悪く女の子たちに目撃され
てしまった。それは血が一滴も出ていない小指だったのだ。
 噂はぱっと広がり今日子ちゃんはまわりのものから気味悪がられ、仲のよかった友人
たちまで遠巻きに見るようになった。それから後も今日子ちゃんの異変は続き、不意に
指をぽろりと床に落としたり、さらには席を立った後机の上に腕がまるごと残っていた
りした。けれどその学期が終わる頃には今日子ちゃんはもうクラスメートたちから仲間
外れにされることはなかった。なぜなら今日子ちゃん以外にも、ちょっとした拍子に手
足などの身体の一部分を落としてしまう女の子たちがではじめたのだった。そしてそれ
はやがて男の子、教師……それからこの島の人間すべてに伝染していった。
 最初はこの無気味で奇怪な伝染病の発生に学校関係者や島民たちはほとんどパニック
を起こしそうになった。しかし日毎に感染者が増え、ほとんどの者がその異変を体験し
てしまうと恐慌は不思議なことに急速におさまっていった。人々は身体の一部が離れて
しまうことに無頓着になり、しまいには乳児の歯が抜けおちるぐらいの日常茶飯事とな
った。そしてむしろその異変を便利に思うようにさえなっていった。例えば身体の悪い
部分だけを病院にあずけて残りは普通の暮らしすることができたりするのだから。
 しかしそんな奇妙で平穏な島の日常も、他ならぬこのぼくが図工の授業中ふとしたは
ずみで自分の手を切ったことから破られた。ぼくの指からぽたぽたと赤い血が工作キッ
トの上に落ちたのだった。
「きゃ! 血よ。気持ち悪……」「汚ねえ!」「なんだこいつ?」
 たちまち教室中が騒然となり、ぼくはその場から走って逃げ自分の部屋にかけこんで
隠れた。そう、いつの間にか人間たちは内面まですっかりゼンマイ仕掛けの人形のよう
な存在に変わっていたのだった。身体がすべて秩序正しく区分された部品から成りたっ
ている彼らから見ればぼくは薄気味の悪い血肉を詰め込んだ得体の知れない皮袋のよう
に見えたに違いない。そして、そんな気持ちはぼくにもとてもよくわかる。だからこ
そ、ぼくもみんなと同じように早く自分の指が落ちないかと願っていたのだ。でも残念
ながらぼくは今だに血肉の溜まった皮袋のままだ。
 ああ、清潔な白い洗面台の中に転がっている今日子ちゃんのピンクががった可愛いら
しい小指! ……それにひきかえぼくの指はごりごりとした骨と血肉を包み込んだうぶ
毛の生えた腸詰めじゃないか!
 ドンドンドンバリバリバリ、ゼンマイ人間たちが部屋の扉を蹴破って汚物処理をはじ
めようとしている。耐え切れない不潔さは憎悪の対象になるようだ。
 ぼくは窓から海にこの手紙が入ったボトルを投げるつもりだ。拾ったあなたのまわり
の人間が指を落しはじめたらゼンマイ仕掛けの世界が近づいている証拠だから気をつけ
なさい。さっさと逃げるか、それともひたすら自分もゼンマイ人形になることを願うか
…いずれにしても早めに決めたほうがいい。
 部屋の扉が壊されていく。もう最後だ。たぶんぼくは糞便が入っている汚物タンクに
沈められてしまうだろう。さようなら…

その三

男は変な思いにとりつかれていた。
 世の中すべてがゼンマイ仕掛けで動いているように思えて仕方がないのである。男自
身でさえも、ゼンマイ仕掛けでできているのではないかと毎日思い悩んでいた。
 男の住んでいる所は白い建物の中、何人かの人間と一緒に仕事をしている。まわりの
者に不安な心の内を話をしていても、気のせいだと言って、適当に相槌を打つだけで相
手にしてくれない。仕方がないので、毎日医者から薬を貰っている。人の話を聞いた
り、薬を飲んでも、男は体がゼンマイでできているという思いは深まっていくばかりだ
った。
 一年、二年と白い建物の中での平穏な生活は続いていく。そして血色のよい皮膚の下
には血液を流すプラスチックの管が縦横に通っている。有機質の代わりに無機質のゼン
マイが大量に積め込まれているとまわりの人間に話すのである。まわりの人間は話しを
聞くことを嫌がった。男は1度話しだすと、相手が何を言おうと疲れて寝てしまうま
で、延々と何時間でも続けるのである。そのため男は白い建物の中では浮いた存在にな
ってしまっていた。
 あるとき、男は人を殺すことを決心した。殺すことで、男の体はゼンマイ仕掛けでで
きているのか、血のかよった人間かの問いに何らかの答えが出ると思ったのだ。それに
今のままでは男は狂いそうだったのである。
 まず、男は作業所においてあるナイフを手に入れた。それを大事に自室に隠した。
 男は若い人間はまだ将来があるから止めにした。それから同年輩の人間も力で負ける
かもしれないから止めにした。そして男は昔からいる老人を標的に決めた。老人はいつ
も古めかしい本を小わきに抱えている。中には何が書かれているのかわからない。若く
ても同年輩の人間でもよかったのだ。老人が白い建物にいたからこそ人間を殺す計画を
立てたのである。男女の間柄に恋わずらいという言葉があるが、男は老人に殺人わずら
いしていたのだった。
 老人は人間の代表であると男は感じていた。こいつを殺してしまえば今人間の格好を
している者すべてはゼンマイ仕掛けか本当の人間か知ることができると夢想するように
なっていた。
 こうして、男は手に入れたナイフで老人を殺し、老人は動かなくなった。老人は最後
に安堵の笑みを浮べたように男には見えた。それも確認する暇はなく、ピーピーとカン
高い笛の音で男はまわりの人に取り押さえられて独房に入れられてしまった。
 男は満ち足りた気分だった。老人は人間だった。つまり男もゼンマイ仕掛けではない
とわかったのである。老人を殺してようやく安堵の微笑みを浮べることができた。
 しかし、その微笑みも長くは続かなかった。男は独房の中で、老人が持っていた古ぼ
けた本を見たのである。それは老人の日記だった。それには「私は最後の人間である。
どうしても寂しくて仕方がないので、ゼンマイ仕掛けの人間を作り、感情を持たせ、白
い建物の中で一緒に働いている」と書かれていた。






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