AWC 紙の星   栬葉


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#290/549 ●短編
★タイトル (got     )  05/12/27  18:23  ( 99)
紙の星   栬葉
★内容                                         06/01/01 01:12 修正 第3版

僕は弟の北斗。ここから先はどう折ったらいいか解らない。僕は身をのりだして兄さん
のを見守った。

南斗兄さんは机の上で十本の指を動かす。ことに親指と人差し指に中指を添えて動か
す。

正方形や三角形の折り筋をつけて、指の肉でアイロンをかけながら、裏返したり回転さ
せたりして折っていく。そのたびに紙がパリパリシーッシーッキリキリッと陽気なメロ
ディを出したよ。

 

やがて左右対称に思いがけない三角形の折り畳みと展開があって、兄さんは中心部のは
らわたをめくり返した。そしたら素晴らしく五芒の星形になった。僕は手をたたいた。

「わぁっ、兄さん、すごぉい。出来た出来た。ぼくにも教えて」

僕は兄さんをすごく頭がいいと思った。僕の星は途中でとまって出来損ないの星のまま
だ。

「途中変更は無しっこだよ」

と兄さんにいわれて、僕はそれをくしゃくしゃにして、兄さんの肩ごしに長い鼻をのば
した。僕は象になったつもりだ。折り紙はくつしたにもなったしヤカンにもなったし
ハートやベルや動物や、なんにでもたいがいの形になった。

「こんなにいろいろな形になって、驚くよね。きっと人間が紙におまじないを掛けたせ
いだよ、僕、うすうす以上だ。こいつら四角と三角ばかりで出来てるよ」

僕がいうと傍らで古老のツルとカエルもこそこそ言った。

「そうだよ、正方形には最初からへんてこな生まれつきがあったんだ」

「どうして生まれつきそんなだったのかしら」

紙のもみの木が紙のあかちゃんをおんぶしながら尋ねた。その横から紙コップが言っ
た。

「めっそうもない。どうしてわしが一筆書きで生まれただなんていうんだ。どこかで切
ったり貼ったりしただろう」

「切ったり貼ったりしないよ。どうしてコップなんかになったんだい。ふたになればよ
かったのに」

四角箱と六角箱も騒ぎはじめた。すると紙コップはぷいとして皆の前で時間を逆行して
つぎつぎと自分を開いていった。そして机の上で元の一枚の正方形に戻ってしまった。

それを見てせっかく完成した星たちがつぎつぎと紙コップをまねだした。机の上は元に
戻った正方形だらけ。

「何になろうかな、何になろうかな」

星たちが騒いでいると、南斗兄さんが号令した。

「みんな元の形に戻れ。折り線が痛むよ」

星のひとつが戻りだした。するとそれをまねて星たちがつぎつぎと時間を順行して戻り
出した。そしてけろりと元の星に収まった。

南斗兄さんはみんなを制しておもむろに言った。

「こんなの、ただののっぺらぼうな四角い面なのにね、見えない活性線がいっぱい引か
れて沢山のかたちが隠されている。大いなる正方形だよ。折り紙作家は活性線を探して
意味ある形を見つけだすんだよ」

「えらいね。えらいえらい」

と三匹の象が手を叩いて同時に言った。

折り紙はアルミ箔のカラーホイルで、光り青、光り赤、光り緑、光り橙、光り黄緑、
金、銀などがつやつやに輝いている。でもこれはたぶんホイル青、ホイル赤、ホイル
緑、・・・・というのかな。南斗兄さんは沢山の星に大好きをこめて大きな紙の舟に紙
の星をいっぱい乗せた。

 

それから兄さんは出来損ないの象の弟にむかって言った。

「北斗、なんだいその格好は。今から僕が僕を折るから、見ていろ」

「あ、兄さん、どうするの」

南斗兄さんは目の前で自分の体を自分で折りはじめた。さっきまで星だったのに、兄さ
んは自分を開いて両腕を折って腰を折って、足をよじった。

「兄さん、それなんのかたち。カニのかたち」

「ちがうよ、両手のかたちだよ、紙の指には脳がついててことさら紙をいろいろ折れる
んだ。完成図も折り線もすっかりお見通しなんだよ。おまえは星になれ」

紙の指ばかりになった兄さんはくしゃくしゃの象の僕をもいちど開いてもいちど折りな
おした。

僕は10日間のあいだ壁の上に貼り付いて希望の星になっていた。          
      

−了−






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